
『匿名への情熱――政治と知的世界をつないだブレーン 楠田實』を上梓しました
2025年9月に『匿名への情熱――政治と知的世界をつないだブレーン 楠田實』を吉田書店より上梓しました。
http://yoshidapublishing.moon.bindcloud.jp/pg5914539.html
楠田さんは、新聞記者時代の1964年に佐藤栄作政権の樹立を目指す「Sオペ」を開始し、同政権では首席総理秘書官として55年体制下で最長の政権を支え、沖縄返還に尽力したことで知られています。その後も、自らの政治事務所を構え、福田赳夫政権では内閣官房調査員として「Fオペ」で献策し、さらに、安倍晋太郎の政権樹立を目指して「Aオペ」を展開し、他方で、竹下登政権にも献策しながら、宮澤喜一、小渕恵三、福田康夫らとも深い親交を結ぶなど、派閥を超えたカタリストとして生涯を送りました。政界での足跡は40年を超えます。
楠田さんの本領は、「知のサロン」を主宰して知的世界と政治をつなぎ、中長期的な視点から政治の理念やビジョンを求めただけでなく、文化、文明も語り、政治の “言力”を生み出したことにありました。それは、海外での交友や、役員を兼職した国際交流基金での経験(特にCGP/Center for Global Partnershipでのグローバルな知的交流)なども加味されて、きわめて開明的でもありました。
極貧のうちに育ち、戦傷で小指を喪失した楠田さんにとっては、「戦争体験を原点に平和を希求し、国粋的に右旋回せず、社会主義的に左旋回もせず、国際感覚を備えた開明的で現実主義の中道保守を確立する」ことこそが使命だったと言えます。本書は、その信念のもとに愚直に凡心を尽くし続けた姿を等身大で実証的に描くとともに、山あり谷ありの評伝として心に響くものを目指しました。本書が戦後政治史をより多元的にとらえる糸口となり、さらに、混迷を極める現下の政治情勢に一つの示唆をもたらすものとなれば幸いです。
和田 純 (神田外語大学名誉教授)